客員研究員
下中 菜穂
山で遊び、川や磯で遊ぶ。草木鳥魚の魂と遊ぶ日。
行事の本来の意味を探るべく、深く深く潜っていこうとする時、まずは新暦を旧暦に換算して(こよみを進めて)考える必要がどうしても生じます。なんて、歯がゆい!
2020年の桃の節句は、旧暦では3月26日。
旧暦のこの時期、本来は春爛漫。様々な花が咲き競い、桜も咲き始める頃でもあります。
その中で、なぜ「桃」なのでしょう? 「桃」がどんな時に登場するのか? 調べてみましょう。
・桃の枝は節分や棟上げ、産湯や葬式などの儀礼にも登場。
・桃の節供には、花が咲いていなくても、桃の枝を飾るという地方もあるという。
・平安時代、大晦日に行われた追儺(ついな)の儀式では鬼を払うのに桃の枝が使われる。
・『西遊記』では、悟空は不老長寿の仙果のなる「蟠桃園(ばんとうえん)」の番を任される。
・中国では古代、3月に「桃花水」を飲んで禊をする風習があった。
・中国では、「桃人」(桃の枝で作った人)を門の両側に立てて、邪を避けた。
→それが「桃符」(桃の木を薄く削って神像やめでたい言葉を書いた護符)となり、現代では「春聯(しゅんれん)」(門に飾る赤い紙の札)となった(おお!そうだったのか!)。
・『古事記』や『日本書紀』の中で、イザナギノミコトは桃の実で鬼や雷神を退散させる。
・木偏に兆(きざす)と書く「桃」。桃の種は卜占に使われた?
・桃太郎は桃から生まれた。
・桃源郷!
などなど……。どうやら桃には不思議な力、強い力があるようですね。
まだまだありそうです。桃の謎、みなさんもぜひ調べてみてください。この節供は桃の強い力を軸に据えた行事のようです。
上は「もんきり」遊びによる、桃、瓢、橘、麻の葉。どれも力のある植物として文様になっています。
さて、「桃の節供」のもうひとつのキーワードは「人形」ですね。私たちの思い出は、この人形にまつわる「ひな祭り」ものが多いのではないでしょうか。
下の写真は鳥取の流し雛。かつては「さんだわら」という米俵の蓋にのせて、川に流したそう。鳥取出身の方にいただきました。今ではだいぶ観光化されていますが、未だに旧暦で行っているとのこと。彼女の幼い頃は、くらしの中の楽しい行事のひとつだったそうです。
地域ごとの生き生きした行事の記憶は今や風前の灯。ぜひ身近な方の話に耳を傾けてみたいものです。全国区になってしまった行事の「あたりまえ」を疑い、地方に残っているちょっと不思議な風習のカケラが消滅してしまう前に拾い集めておきたいもの。
ひとつひとつはささやかでも、キチンと記録すれば、今、私たちができる未来への贈り物になると思うのです。
宮本常一氏は、ひな祭りは「もともとは形代(かたしろ)をつくってそれをまつって、子どもにこれからおこるかもわからない不幸を、その形代に持って行ってもらう行事だったのです。」(『歳時習俗事典』)と書いています。
さらに、今は一般的には「ひな祭り」に含まれないけれど、この日に行われる行事が、「山遊び」「磯遊び」です。
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くらしのこよみ友の会事務局
「桃の節供句会」を開催しました!――準備編
かつて王朝びとは、桃の節供に合わせて、花の下の流水に臨んで和歌を競い詠む優雅な遊び「曲水の宴」を催したといいます。そのみやびな世界に憧れと敬意を表しつつ、くらしのこよみ友の会では、季節を言葉で表現する文芸「俳句」の世界に遊ぶことといたしました。
題して「桃の節供句会」。会員の皆さまから投句を募り、集まった作品にたいしては講師の先生に講評・添削・秀句選抜をしていただき、さらに会員相互の互選による人気句も決める。その一連の流れを、オンラインやリアルな句会の場を使って会員の皆さまと共有する、というイベントです。
2月下旬から3月中旬までかかる、ちょっと長いイベントとなりましたが、おかげさまでおおぜいの会員の方からたくさんの投句作品をいただき、「リアル講評会」も開催することができました。
そこで、まずは「準備編」と題しまして、友の会初の俳句イベントの概要をご紹介したいと思います。(写真は講師の望月とし江先生です。)
句会の概要
【投句】
オンラインのコミュニティらしくオンライン上での応募受付としました。投句はおひとり3句以上で、3句のうち1句は、季語「雛祭り」またはその傍題を入れて詠む。
【互選】
投句者名を伏せた作品に対して、会員同士、気に入った句や「これは良い!」と思った句に投票する。投句しなかった方も投票はOKとする。おひとり3票。
【講評・添削・選句】
講師の先生方が、全投句作品に対して講評と添削をしていただきます。さらに秀句を選定し表彰いたします。
【リアル講評会の開催】
望月とし江先生によるリアル講評会を開催
【講師のご紹介】
◎望月とし江先生
俳句結社「澤」同人。小澤 實に師事。結社誌『澤』現編集長。アプリ/書籍「くらしのこよみ」掲載の俳句解説者。俳句甲子園全国大会(H25.26.27.29.30年)1、2回戦審査員。
◎押野 裕先生
俳句結社「澤」同人。小澤 實に師事。結社誌『澤』元編集長。アプリ/書籍「くらしのこよみ」掲載の俳句解説者。
【「桃の節供句会」をたのしむための、俳句の基礎知識】
句会開催を決定したものの、事務局内も「俳句なんて詠んだことない!」「小学校の国語の授業以来」という人ばかりでしたので、少しでも参加のハードルを下げるべく、投句開始前に、以下のような項目について望月とし江先生に教えていただき、ブログ記事を掲載しました。
◎俳句とはいつごろ、どのようにできあがったのか?
◎俳句と川柳(せんりゅう)とはどう違うのか?
◎俳句を作る時のルールについて
【1】字数と「定型」 【2】「季語」をつかうこと
【3】「切れ」を意識する 【4】仮名づかいについて
◎今句会のテーマである「雛祭り」という季語について、名句を例に挙げての解説
俳句を詠むためにどんなことを知っていたらよいのか、作句するときは何に気をつけたらよいのかを、編集部と先生のQ&A形式でまとめた、いわば初心者のための「俳句の基礎知識」です。
幾つかある基礎知識の中から「【3】「切れ」を意識する」の一部を紹介します。
「定型」「季語」がそろえば、俳句の出来上がりとなるのですが、「定型」「季語」がそろった上で、もう一つ要素があります。「切れ」または「切(きれ)字(じ)」です。
例:五月雨を集めて早し/最上川 芭蕉
/の部分が「早し」という終止形で切れています。いったん止まることにより、詠嘆がこもり、読み手にここで景が広がります。「切れ」も句の世界を広げてくれるのです。
これが、
五月雨を集めて早き最上川
のように「切れ」なくつなげると、単調で緊張感がなくなり、句が小さくなります。
【「俳句の基礎知識」の詳細記事の公開は終了しております】
くらしのこよみ友の会事務局
「桃の節供句会」を開催しました!――講評会と秀句発表編
記録的に早い桜の開花宣言も受け、東京はたいへんうららかな陽気の続いた3月となりました。
くらしのこよみ友の会初の俳句イベント「桃の節供句会」。3月4日に予定通り投句を締め切りましたところ、なんと21名の研究員の皆さまから作品をお寄せいただきました。
そして、講師の望月先生・押野裕先生に、全63句に対する講評と添削をご準備いただき、3月某日「桃の節供句会」の終盤を飾る「リアル講評会」が行われました。
当日は、シックな和装でお出ましいただいた望月とし江先生に、大変細やかなご講評と、作品の良さを活かす温かいお気持ちのこもった添削をいただき、参加者一同、楽しくも深い学びの中に、あっという間に過ぎた充実の時間となりました。
講師にお選びいただいた特選3句、並選10句と、会員による互選結果も発表・表彰されましたので、特選と並選に選ばれました作品をご紹介いたします。
<特選>
鼓打つ音の変わりて春きざす (あきらこ)
古雛(ふるひいな)八十路に向けて輝けり (さくらちゃん)
花疲れ冷えし頬に君の手くる (あき)
(写真は、特選句作者に進呈された書籍『名句の所以』です。)
特選の講評はこのようにつけていただきました。
<並選>
古雛を我が子と飾る母想い (事務局みよし)
雛飾る妻の目尻に和む宵 (モカの寝床)
お道具を持ちて雛の生き返る (あきらこ)
雛の箱紐解く指のもどかしき (ミミ)
飾るよりまづかくれんぼ雛の間 (大関)
さくら貝包んでわたす雛祭り (みうきい)
幼子の唄で幕開け雛の宴 (事務局リカ)
山笑う犬のしっぽに陽のひかり (山﨑修)
抱き雛多幸を祈り一刀彫り (ユキコ)
妹のもろ手にうくる雛あられ (方眼子)
参加者には、俳句を詠むなんて学校時代以来! という方、ご家族が俳句作りに親しんでいた方……多種多様なご経験をお持ちの方がおいででしたが、くらしのこよみ友の会初の俳句イベントは、どうやら大変好評を得られたようです。ぜひ季節を変えてまた開催を! というお声もいただいておりますので、事務局としても次回の開催を目標にしたいと思います。
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行事をたのしむ「桃の節供」にご協力くださった研究員のみなさん(順不同、敬称略)
(客員研究員&編集)
下中菜穂、折形デザイン研究所、木下着物研究所、神谷真生、田中宏和
(研究員)
大関、みうきい、三澤純子、さくらちゃん、ユキコ、あきらこ、あき、まつなみ、ミミ、モカの寝床、奥次郎、山﨑修、れいこ、うさこ、こがっぱ、オッチー、山口方眼子、みよし、サトエミ、すの、里佳、おごもん
ご協力ありがとうございました!